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 《中丸薫のワールドレポートVol.54》の内容を特別に公開することにいたしました。

* 中丸薫のワールドレポートは毎月一日に発行されます。

《中丸薫のWORLD REPORT》 Vol.54 2003年4月号
INDEX

◆国際情勢◆
『イラク戦争開戦 / 9・11遺族が米政権を集団訴訟』

いかなる宗教にもあてはまらない、正当性を欠いたイラク戦争。
そんな中、9・11が米国によって仕組まれたと主張する弁護士の言い分とは…。
◆トピックス◆
『ネオコンが果たした役割』

レーガン政権時代から一貫して軍事大国を目指す新保守主義と、キリスト原理主義
とは…。

◆交友録◆
『サダム・フセイン大統領(一九三七年〜)』

戦時中でも見せる冷静な状況分析と、彼の宗教観とは…。




◆国際情勢◆

『イラク戦争開戦 / 9・11遺族が米政権を集団訴訟』

 イラク戦争が始まった。イラクはどこへも侵攻していない。テロリストとの関係もわからない。国連査察へも協力していた。防空力も、イラクが誇った大戦車隊も、湾岸戦争時に比べれば一〜二割ほどの戦力しかないと言われているし、経済封鎖による貧困と湾岸戦争時の劣化ウラン弾による被害は果てしなく続いている。そのような国を、大勢の市民を巻き込んでまで先制攻撃する正当性が一体どこにあるのか。アメリカの独善性が明らかになるにつれ、イラク反体制派の間からさえ「われわれはアメリカに利用された」という声が上がっている。

 本紙はブッシュ政権が誕生し、『Unfinished War』(終わらない戦争)を掲げた頃から、「アメリカはどのような口実を持ち出してでも再びイラク攻撃に踏み切る」と指摘してきた。そのことをいちばんよくわかっていたのはフセイン大統領であっただろう。兵器を廃棄してもしなくても自国を攻めにくるとわかっていれば、兵器の廃棄を外交カードとして小出しに使ってくるのは主権国家としては当然のことである。本当に武装解除させるのが目的であるならば、政権存続と引き換えにする道もあったはずではないか。

 今回の先制攻撃を正当化する根拠として必ず出てくるのが9.11テロである。ブッシュ政権首脳陣も戦争支持のアメリカ市民も「われわれの安全を守るために国際社会の同意は必要ない。われわれは9・11を体験したのだから」と叫ぶ。9・11について、本紙では早い段階から「仕組まれたテロだった」ことを報じた。そして最近、仕組まれたテロであったことを裏付ける新たな「事件」が発覚した。9・11の遺族四〇〇家族が「ブッシュ大統領がこの事件を引き起こした」として、政権の首脳陣を相手取って集団訴訟に踏み切ったのである。訴訟代理人はサンフランシスコのスタンレー・ヒルトン弁護士。ヒルトン弁護士はドール上院議員の顧問を務めたこともある大物弁護士である。彼はラジオのインタビューに答えて言った。

 「9・11被疑者の元妻が『主犯とされるモハメット=アタとその弟に会ったが、彼らはイスラム原理主義者でも何でもなかった。彼らはアルカイダとアメリカ当局両方の工作員であり、彼らの資金や指令はアメリカ政府から出ていた』と語っています。彼らは家賃等の生活費までFBIやCIAから手当てしてもらっていたようで、その支払いの証拠となる小切手もあります」

 インタビューからは、ヒルトン弁護士が繰り出すあまりに衝撃的な話の連続に、聞いていたインタビュアーの方が狼狽している様子がうかがえる。訴訟の事実は大手メディアでは取り上げられていない。しかし、事実が立証されれば、9・11がアフガン戦争、イラク戦争を含めた、アメリカによる世界征服の重要な戦略であったことが決定的となる。

ネオコンが果たした役割

 アメリカは打ち消しに躍起になっているが、今回の戦争の目的のひとつに石油があったことは間違いない。ただし、厳密に言えば油田そのものというよりも、イラクを占領することで政治的、経済的、軍事的な優位を手に入れ、中東での覇権を絶対的なものにすることである。

 こうした悪魔のシナリオを牽引しているのが、ラムズフェルド国防長官、チェイニー副大統領、ウォルフォウィッツ国防副長官、パール国防政策委員長らである。パール委員長は『エルサレム・ポスト』の幹部で、ネタニヤフ政権時には政策顧問として活躍したという筋金入りのシオニスト右派であり、「暗黒のプリンス」の異名をとる。彼らはふたつの点において勝利した。ひとつは自分たちの描く世界戦略をブッシュ政権と国民に認めさせたことであり、もうひとつはキリスト原理主義者を「ネオコン」(新保守主義)の担い手として洗脳したことである。

 彼らはレーガン政権時から一貫してアメリカの軍事大国化を牽引し、一九九二年にはクリントン大統領に安全保障戦略の見直しを要請。「脅威」は事前に取り除くべきだとの草案を提出した。結局この草案は、あまりに過激な内容に困惑した関係者が記者にリークし、ワシントンポスト紙のスクープとなった後に闇に葬られた。それが、昨年発表された「米国の国家安全保障戦略」いわゆる「ブッシュ・ドクトリン」として息を吹き返した。九二年には容認されなかったものが、9.11を経て政権と世論を動かしたのである。

 その原動力となったのがキリスト原理主義者たちであった。キリスト原理主義の信奉者は全米だけで三千万人いると言われ、彼らはシオニズム右派がしかけた洗脳によって、今では新保守主義の忠実な担い手となった。その洗脳の中身は「旧約聖書に出てくる『バビロンの捕囚』を引き起こしたバビロニア帝国の王(=ネブガドネザル)の再来がサダム・フセインである」というものであった。バビロンは今のバグダッドである。この洗脳によって、サダム・フセインとバグダッドを制圧することは、キリスト原理主義者の「聖戦」としてブッシュのイラク攻撃を後押しする世論を形づくった。

 国連決議なしのイラク攻撃に対して、ブッシュ大統領の父は「アメリカの単独攻撃に反対する人々の意見にも道理がある」と忠告した。彼は湾岸戦争時「バグダッドに侵攻せよ」と叫ぶシオニズム右派の声を退け、バグダッドに侵攻しなかった。それがユダヤ系メディアの反感を買い、再選を逃した。シオニストの策略には乗っても乗らなくても危険がつきまとう。その恐ろしさを知っていればこそ、単独攻撃に突き進む息子に意見を述べたのであろう。また、かつてユーゴを戦渦に陥れた前国務長官オルブライトも「トルコでは反米機運が盛り上がっている。トルコの全面協力が得られなければイラク攻撃を見送るべきだ」と忠告した。トルコとイスラエルの関係が悪化すれば中東に重大な混乱を招く。彼女の発言はそれを懸念してのことであった。だが、二人の忠告も、熱心なキリスト原理主義者のブッシュ・ジュニアには届かなかった。

 アメリカ支持を明確にしたことで、日本の安全にも不安が出てきた。そればかりか、イラク攻撃をきっかけにしてヨーロッパとロシア、中国の結びつきが強くなれば、日本はユーラシア大陸に隣接していながら政治的にはアメリカに属する、という極めて危うい立場に立たされることになる。軍事大国になった国がその瞬間から崩壊への道を歩み出すのは歴史が示すところである。日本は日米同盟に依存してきた戦後の外交戦略を根本から考え直す時期に来ている。

 


◆トピックス◆
『イラクの思い出』

 イラク戦争が開戦してからマスコミ取材が増えた。たいていは「実際にお会いになったフセイン大統領の印象は?」とくる。


 「礼儀正しく頭脳明晰。不遇な境遇から身を起こしてトップにのぼり詰めただけあって、カリスマ性もありますし、やはり類まれな政治家ですね。それは閣僚の方々をみてもわかります。私はイラクのすべての閣僚とお会いしましたが、どの方も高潔で博識。アジズ副首相はイラクでは数少ないクリスチャンですし、こういう方たちが長くフセイン政権を支えていることを考えると、フセイン大統領はリーダーとして優れた資質を持っていらっしゃるのだと思います。私はアラブ諸国の王族とも交流があり、その国民の生活もつぶさに見て歩きましたが、イラク国外のアラブ人やパレスチナ人たちも大衆はみな『フセインはアラブの英雄だ』と賞賛するのです。アラブの人たちにとってフセイン大統領はすでに英雄ですし、死んでも英雄。やがて神格化され伝説となるでしょう」

 こんな具合に話をするとたいていの記者はいぶかしがる。「でも彼は残虐な独裁者ではありませんか」と。だが、地政学的に、あるいは民族的、宗教的に複雑な歴史背景を持つ国の政権と言うものは往々にして独裁的なものである。たとえば、アラブ諸国は王族による長期独裁政権が続いている国が多い。そのような国々が安定を保っていられるのは、石油の権益と引き換えに「親米政権」を樹立し、アメリカの軍事力とロビー活動によって守られているからに他ならない。  

 「でも、政敵を殺すなどと言うのは民主主義の国ではあり得ないでしょう」I記者はなおも食い下がる。そう思うのは善良な市民だけである。「先進国」においても政敵の暗殺は行われているのだから。ただし、それらは「事故」や「自殺」や「心臓発作」であるケースがほとんどで、政治とは関係のない一般市民にはわかるはずもないのだが。

 政治家とはたくさんの顔を持つものである。国民に向けた柔和な顔、政敵を追い落とす修羅の顔…。だから私も私が感じたフセイン大統領の印象が彼のすべてだとはもちろん思わない。それでも私がフセイン大統領を類まれなリーダーだと思ったのは、彼が政権に就いてから国と国民を見違えるように生き生きとさせたこと、そして彼の語る国家観が石油ではなく、人間の資質を礎とするものだったからである。

 私がフセイン大統領とお会いした時、イラクはイランとの戦争の只中にあった。さぞや国土も国民も憔悴しているだろうと思って空港に降り立ったが、降りて驚いた。それより五年前、フセイン大統領就任前にイラクを訪れたときには、夢も希望もないといわんばかりに重苦しい空気が国中を覆っていたのが、フセイン政権になって四年足らずで活気に満ちた国に変貌していたからである。その時知り合った夫がアメリカ人、妻がアラブ人という夫妻も「アメリカのマスメディアで知っていたイラクの印象と、実際に住んでみた印象はかなり違います。バグダッドは美しい。生活を向上させるという目標に向かって国が一丸となっているためか、国民の顔も輝いているし、とても一体化された社会ですね」と語っていた。

 イラク国民は「われわれは最後まで戦う!」と拳を振り上げる。そう、人間には尊厳がある。その尊厳はどのような暴力でも決して冒すことができない。たとえ命と引き換えにしても人はその尊厳を守ろうとするものである。そう考えると「力の道」による支配がいかに無意味なものかがわかる。思えばイラン・イラク戦争が勃発した理由のひとつには、イランの革命が周辺諸国に流出するのを恐れたアメリカが、イラクに生物化学兵器を含む大量の武器・兵器を供与し、イラクを革命思想の防波堤にしようとしたことがあった。そのことを誰よりも承知しているフセイン大統領は、私が「イランとの戦争はあなたが起こしたのでしょう」と迫っても嫌な顔ひとつせず、イラクの立場を諄々と説いた。自らの利益のために育てた政権が影響力を発揮し始めた途端、「ならず者」に仕立て上げるアメリカ。クルド人を反乱に駆り立てておいて最後は見殺しにしたアメリカ。彼らに正義を説く資格はあるまい。

 最近、ロックフェラーの総帥が国連にあてた書簡が巷に流出して話題になっている。『終わりの始まり』と題されたその書簡には、これから世界は破壊と暴力を根本とする「大量掃討作戦」によって益々混乱し、米・英・中国が崩壊、やがて世界統一政府が樹立される、と記されている。どうやらイラク戦争は序章に過ぎないようだ。だが、そのような悪魔のシナリオを天が許すはずもない。『終わりの始まり』は実は彼ら自身の『終わりの始まり』であることに彼らは気づくべきであろう。

 


◆交友録◆ サダム・フセイン大統領(一九三七年〜)

 「大変申し訳ないのですが、一五分ほど遅れます」- そう伝えにきたのはフセイン大統領本人だった。このような伝達はどこの国でも側近の役目である。なんて礼儀正しい方 - それが第一印象であった。

 当時イラクはイランとの戦争の只中にあった。マスメディアでは「シオニストがイランを支援している」と度々伝えられていた。

 「宗教集団としてのユダヤ人と、アラブを犠牲にして領土拡大を図る狂信的なシオニストの区別をしなくてはなりません。シオニストはイランとイラクの対立状況をつくり出すのに積極的な役割を果たしています。アメリカにいるシオニストも同様で、彼らのメディアや財界での勢力、議会への圧力、政府活動における役割は相当なものです」

 その語り口も状況分析も、当事国とは思えないほど冷静だった。イラクの将来像も明確だった。

 「イラクの石油が無尽蔵だとは思いませんし、代替エネルギーの開発が進めば石油の価値は下がるでしょう。だから私たちは国の財産は人間そのもの、つまり人間の資質にあると考えます。イラク国民には高いレベルの科学、技術、文化を身につけてもらいたいのです」

 趣味について語るときはふと表情がゆるんだ。

 「国民に尽くすのが私の責任ですから時間はないのですが、時折釣りをします。二時間くらい釣り糸を垂れると頭の中がすっきりします。もっとも魚はあまり釣り針にかかってくれないのですが」

 気がついたら二時間が経っていた。最後に宗教観について尋ねた。

 「宗教は停滞や後退を受け付けない。常に前進、上昇の過程なのです。キリスト教も同様のことをうたっています。私は国家の発展と精神面での信仰が相反するとは思いません。しかし、何世代にも渡って宗教が誤解され、その精神に反した行動がとられてきました。あたかも精神と現実、宗教と開発とが相反するかのように。でも本当は世界のどの宗教も前進を唱えているのです」

 今イラクの地にあるすべての人の安寧と繁栄を心から祈ります。

 


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